つながった命、届かなかった想い
以前は、救急の現場で働いていました。
昼夜を問わず運ばれてくる患者さんと向き合う日々。
できるかぎりの処置をしても、回復に至らないこともあり、
無力感を覚える瞬間が、少しずつ心に積もっていきました。
気づけば、自分でも気づかないうちに、
少しずつ、気持ちの余裕をなくしていたように思います。
目の前の患者さんに丁寧に向き合いたい気持ちはあるのに、
ふとした場面で、優しく接することができなくなっている自分に気づくことが増えていきました。
このままの働き方を、ずっと続けていけるのだろうか。
家族との時間、自分自身の人生のあり方や医療への想いを考える中で、
初めて「別の選択肢」を思い浮かべるようになりました。
美容医療という、新しい選択肢
学生時代には、美容医療に進むなんて考えたこともありませんでした。
大学の医局に残るか、市中病院に就職するか。
当時はその程度しか選択肢がなく、美容医療に対しても、
どこか敬遠されるような空気があったのも事実です。
でも、あらためて調べてみると、美容医療はとても興味深い世界でした。
他の外科領域と同じように、機器や技術の進歩とともに低侵襲化が進み、
以前よりも気軽に足を運べるような、身近な医療になりつつあることを知りました。
命に関わるような重い医療とは少し違うかもしれない。
けれど、美容医療には、誰かの人生を前向きに照らす力がある。
そんな可能性を感じました。
自分の経験と、患者さんの言葉
実際に、美容クリニックでの診療を経験していく中で、
一重だった目元を二重にしたいと願う方に、多く出会ってきました。
自分自身も、昔から一重で。
小学生の頃から、それがからかわれるきっかけになったこともあります。
今となってはチャームポイントのように思ってはいるけれど…笑
二重がすべてではないし、一重にもその人らしい魅力がある。
でも、「ここが変わるだけで、自信が持てそうなんです」と話してくださる方の気持ちは、
なんとなく、わかる気がしています。
少し変わった自分をみて
「本当に嬉しいです」と。
その言葉に自分も、嬉しいような、少し誇らしいような気持ちになりました。
美容医療は、見た目を整えることだけが目的ではありません。
その人自身が、自分を少しだけ好きになれるようなきっかけになる。
そんな診療に携われることに、あらためてやりがいを感じはじめました。
開業という選択肢
これまでに、二つの美容クリニックを経験し、
外科治療も肌治療も、少しずつ経験と知識を積んできました。
ただ、クリニックという“企業の枠”のなかでは、
使う薬剤やすすめる施術、価格設定にまで一定の制限があることも多く、
「本当に届けたい」と思える医療を、思うように提供できないもどかしさも感じていました。
誰かに決められたメニューやマニュアルではなく、自分の目で選び、
手で届けたいと思える治療を、自分のスタイルで形にしていく。
それができるのは、やはり自分の場所を持つという選択なのだと思いました。
そうして、開業を考えるようになったのです。
次回予告
次回は、「物件探し vol.1」と題して、
どんな場所で開業するのか——を考え始めた頃のことを綴ってみようと思います。
「札幌のどこで?」「駅近がいいのか、落ち着いたエリアがいいのか」
そんな迷いやリサーチの始まりについて、少しずつ振り返っていきます。
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